第8回 イベントレポート 「大山 エンリコイサム “Quick Turn Structure”」
ライブ・ペインティングから表現活動をスタートさせ、現在は壁画からペインティングまで広く制作している大山エンリコイサムを迎えて、第8回目の食とアートの会が11月6日にレストラン・アイで開催された。
大山は、この夏から秋にかけて開催された「あいちトリエンナーレ2010」で長者町商店街に巨大な壁画をひとりで描きあげ、独自のモチーフである「Quick Turn Structure」をダイナミックなスケールで展開し話題を集めた。また、同時に展示されたペインティングやドローイングでは、同一モチーフを丁寧に描きこみ、その表現の洗練された繊細さも見せてくれた。今回の食とアートの会では、「エコロジー」をコンセプトとしている松嶋啓介シェフのフレンチ・レストランに、トリエンナーレで展示されたペインティング作品6点と新作ドローイング3点の計9点がレストラン・アイに展示され、展示空間の文脈に左右されない大山作品の強度が際立っていたように思う。レストランでの展示を観た人からは、大山の作品から新たな印象を受けたという声が多く聞かれたのも、そのためだろう。
「増殖するイメージ」と題された松嶋シェフとのトークでは、大山は「今回の展示の企画段階で、自分の描くモチーフと植物の有機的な増殖性が似ていると指摘された時、自分でもそのように考えたことはなかったので新鮮だった」と話す。また、話は国際社会におけるアイデンティティの問題にまで広がり、「国籍や地理的な文化の腑分けに限定されない、普遍性に強度のある作品を制作していきたい」という大山に対し、松嶋シェフは「日本をでた時はそのような気持ちだったが、フランスで仕事をするうちに、日本人であるということを強く意識するようになった」という。その言葉の通りに、シェフはこの日も東京豚X、江戸野菜などの東京・関東近郊の食材を中心とした地産地消の料理を提供した。
大山は現在、壁画からペインティング、ドローイング、また立体にいたるまで「Quick Turn Structure」を軸にさまざまな手法で制作している。ますます彼の活動が厚みを増していくなかで、イタリアと日本のハーフである大山のアイデンティティがどのように作品と交わっていくのかという点も含め、今後の展開を期待させる展示とトークであった。
トーク終了後、美食と美酒を堪能しながら広がるコミュニケーション。
サッカー元日本代表監督 フィリップ・トルシエ氏の姿も。
DJ 沖野修也氏
Text : Yoshinori Tsukuda
Photo : Shinya Hirose